こころに潜る、こころで読む

今回は、私事で恐縮ですが、自分が関わった本についてご紹介いたします
タイトルは「忠吉語録」。クラフト紙の表紙に白い帯で「島根・木次(キスキ)のお百姓から授かった10+1の言霊を一冊に」とあります。
著者の野津恵子さんとは友人関係でもあり、今から遡ること7年前に「忠吉さんの語った事を伝える」というプランを二人で話していました。彼女が会わずにはいられないと、会い続け繰り返し耳にしてきた忠吉さんの言葉。それがこの本の柱になっています。

恵子さんが会い続けた人物である佐藤忠吉さんは、知れば知るほど大きな方でした。
来年の3月で99歳ですが、とてもそんなお年には見えません。小柄な身体の芯からまだまだ生きる気概を静かに感じる方です。
忠吉さんは自分の名刺に「百姓」と入れてあります。昨今では差別用語だと指摘されかねないこの言葉が、実は意味が深いものでした。「百姓」とは百の事を自らの手で作る者であり、全ての土台である大地の仕事をするという意味で、忠吉さんにとって尊い肩書きなのです。

大正生まれの忠吉さんは、「農」が農業になる前の時代をよく知っている最後の世代の人です。戦後、「農」が農業として経済システムに組み入れられることで、農家も均一に安定した収入を得られるようになっていきました。それは素晴らしいことではありましたが、一方で、時代の波が消したものもあります。産業化される前の、戦前の「農」は、様々な不合理や不都合な環境の中でも大地に根ざして生きるために、代々、親から子へと具体的な教えがしっかり伝えられていきました。子供はその教えを身体に刻み、生きるすべを身体で覚えていきました。忠吉さんもちいさな共同体の中で、生まれた風土にかなった生き方を一つ一つ身体で覚えて自らの知恵にして生きてきた。そこに地域が誇る素晴らしい教育者がいて、大正デモクラシーの人道主義のエッセンスにも直に触れていた。そんな環境の中で育ち、幾多の困難に遭いながらも仲間とともに、自分たちの真実に生きてきました。それは主流に対して常に反旗を翻し、オルタナティブな選択に終始していくのですが、忠吉さんたちの行動の原点は、きっと先人からの善き教えにあるのではないか。さらに言うと、その言葉の源流には、古今東西の叡智を汲み上げた、個人を超えた大いなる水脈を思いました。

忠吉さんは、恵子さんたちが会いにいくと美味しい乳製品など、様々なものを持って帰らしてくれたと言います。さながらおじいちゃんが孫の手にお菓子を乗せて持って帰らせるように。お互いが深い愛情で結ばれているから、その時の真実が言葉になって伝わっていったのでしょう。
受け取ったものを今度は多くの人にも伝えたい。一つの願いはこうして本になりました。
人から人へ伝えられた言葉は、長い歳月とともに、より多くの人の手を借りて濾過され、生きていく言葉として純化されていったように思います。
忠吉さん言葉が、時代を超えて様々な年代の人々に届くことを願います。

「忠吉語録」
著者 野津恵子
写真 森善之
出版社 DOOR books

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高橋香苗/book&gallary DOOR店主
1984年 結婚を機に島根県の松江に移る。2004年 子育てが一段落したことと、単発のイベントを企画したことで、交友関係の質が変わり広がっていたことから、自宅の一部で本やテーブル周りのクラフトなどを扱う「DOOR」いう店を始める。2010年 地元の物作り作家や友人たちといっしょに、隠れた山陰ならではものを探るために。手仕事を紹介するイベント「ひびきあうもの」を企開催。以来毎年行っている。国産織の白生地や草木染め生地を1人の手による縫製にこだわったオリジナルの洋服や、地元作家とのオリジナル商品も展開している。


2018年12月23日 

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